第5部の最後に
目次
A Few Final Thoughts About Part 5
観察の鋭い読者であれば、筆者が第4部までは一貫して「戦略」ではなく「システム」という用語を使っていたのに、第5部では頻繁に「戦略」という言葉を使っていることに気づいていると思う。
システムとプラン
その理由は、「システム」は筆者にとって基本的なトレードの仕掛けと手仕舞いのテクニックにすぎないが、「戦略」は、システムや資金管理のルール、特定のマーケットでのトレードに対する綿密な推論を含む完璧なトレーディング・プランを意味する。
筆者にとって適切な資金管理ルールのないシステムは戦略と呼ぶに値しない。
TradeStation(トレードステーション)は、そのままでは完璧な戦略の構築には利用できない。
ポートフォリオ全体の検証はいうまでもなく、単独のマーケットで適切なシステム検証さえ実行できないのである。
資金管理
第5部では、固定比率資金管理のルールを統合する方法を詳しく説明し、一貫して パーセンテージベースによる計算を使用した。
前の章でのつらい作業をすべて適切に完遂しなければ、これを実行することはできない。
いうまでもなく、全体が部分の総和を超えるようなシステムでは資金管理やポートフォリオの構成など、すべての要素がほかのすべてに影響を与える。
このようなシステムを構築するには、何を達成したいのかを正確に理解しておくことが大切で、ごまかしは一切通用しない。
筆者はビンスの信奉者であるが、、、、筆者がビンスの考えを正しく理解しているならば、パーセンテージベースとポイントベースのデータに関しては、どちらを使うかは問題とはならないはずである。
ビンスは、ポイントベースのデータをトレンドが強く出るマーケットで使用する場合の問題については認識しているが、使用するデータでトレンドが問題となるような場合、それは、おそらくデータ量が多すぎるからであると述べている(『マセマティック ス・オブ・マネーマネジメント(The Mathematics of Money Management)』)。
長く機能するシステムを作るために
しかし、これ以上の誤りはない。
確固とした結果を得るには、可能なかぎり多くのデータを扱う必要がある。
これに以外の方法はない。
システムを将来においても機能させるには、直近のトレンドがどのようなものであれ、トレーディングされている水準に依存しないマーケットの不規則な動きを発見する必要があるからである。
その動きとは、いかなる現象にも依存せず、特定の時間にのみ帰することができるものでなければならない。
さらに、さまざまなマーケット間で比較を行うことができるのは、パーセンテージベースの計算を使った場合だけである。
ビンスは、システムを堅牢なものにするには、複数のマーケットを扱う必要があるとしているが、その場合の問題点については触れていない(たとえそれが、ビンスの著書の目的ではないにしてもである)。
一般的な誤解
このセクションのもうひとつのポイントは、過去の最大の負けトレードを最適の f の算出に利用できないことである。
最適の f は、使用するモデルに適用した条件に基づく最大TWR値を導く f 値 である。
残念なことに、アナリストとシステム設計者のほとんどは、最適の f を過去の最大の負けトレードに対応する f 値と認識している。
この認識が一般に広く流布されており、固定比率による投資に関する理論全体の理解を危険なものとして遠ざけてしまっている。
過去の最大の負けトレードを最適の f の算出に 使うことは、最適の f を特定の条件に関連づける唯一の方法である。
ただし、過去の最大の負けトレードの2倍にあたるような失敗を犯したくないのもまた事実である。
この最適の f は、一般に認識されている最適の f よりもはるかに大きな値となるからである。
この特殊なケースでは、ビンスの意図が皆を盲目にすることにあるとは思わないが、実際にはそれに等しい。
何らかの情報を読み取り、その数値を熟考することなくそのまま受け入れてしまっている。
実際、最大の負けトレードに基づく最適の f でトレードを行うことはかなり危険である。
しかし、今まで見てきたように、よく分散されたポートフォリオでは、証拠金の制約や大き過ぎるドローダウン、トレード不可能な枚数などのいくつかの現実的な理由で、高い f 値でトレードを行うことには無理がある。
ストップロスの設定
本書では、過去の最大の負けトレードから f 値を算出する代わりに、各トレードのストップロスとマーケットの状況にかかわらずストップロスのレベルを一定に保つことを提案してきた。
選択した制約条件に基づいて最適の f を算出したら、実際にはそれよりも低い値を使用するようにしなければならない。
将来においては、特に特定のマーケットを志向したポイントベースで構築したシステムでは、未知の f 値が実際にははるかに低いものだったということがないとはいえないからである。
多くのポートフォリオマネジャー、特に株式市場を扱うマネジャーは、固定比率資金管理のルールを、CAPM(資本資産評価モデル)やEMH(効率的市場仮説)と統合しようと試みたことがあるはずである
全てマーケットの差異がないという前提
しかし、筆者の理解しているかぎりでは、両者を統合することは不可能である。
その理由は、いくつもの異なるマーケットで均一に機能するシステムでは、そのすべてのマーケットで統計上の特性に差異がないという前提が必要だからである。
これは現実には多少そぐわないかもしれないが、システムの目的のためには必要な前提である。
そしてこの前提があるがために、構築したシステムで資金管理を適用するときには、そこから逸脱することはできないのである。
そうでないと、最適なソリューションを外してしまうことになる。
すべてのマーケットで統計上の特性が同じであるということにしないと、すべてのマーケットで均一に機能するシステムを構築することはできない。
そうしなければ、すべてのシステムはやむを得ずカーブフィッティングによって特定のマーケットに特化し、堅牢性に欠け、どのような資金管理ルールを適用してもトレードを行うには危険なものとなってしまう。
一部では、ポートフォリオ全体がドローダウンのなかにあるかどうかによって、異なる f 値を使用すべきであるという議論もある。
この場合、マーケットが上昇トレン ドであるか下降トレンドであるか、買いポジションを取っているか売りポジションを 取っているかは問わない。
しかしこの方法では、基本となるシステムに欠陥があるという前提に立って、資金管理の手法を駆使して個別のトレードの利益を何とかして増やすしかない。
しかし、たとえ正しく構築されたシステムであっても、個々のトレー ドの結果を知ることも予測することもできないのであって、それは現実的ではない。
トレンドの方向が上昇であろうと下降であろうと、あるいはその両方が起こっているようなマーケットにおいてさえも、有効に機能するシステムでは、天井と底をとらえることと上方や下方へのブレイクアウトで仕掛けることの間には何も違いはない。
マーケット固有の特性
また、特定の戦略に限定すれば、このような反論も可能である。
上昇トレンド(下降ト レンド)のなかで、ストップロスのレベルを変更するか投資金額を変更するかして、 より大きな買い持ち(売り持ち)のリスクを取る可能性である。
つまり、これは特定のマーケットやトレンドに特有の性質やアノマリーの存在を否定するものではない(本書では、実際にいくつかの[短期の]アノマリーに遭遇した)。
見つけだしたいタイプのアノマリーがマーケットに存在するのであれば、一度にひとつのアノマリーを正確にとらえるシステムを構築しなければならない。
しかし、そのようなシステムにはもはや汎用性はなく、本書で取りあげたシステムに比べて信頼性や堅牢性に劣るものとなってしまうであろう。
(*「アノマリー」:投資理論では説明ができないが、一定の条件できまった動きをすること)
統計分布から最適化した場合の現実
最後に、より理論を重視する傾向にあるシステム開発者やアナリストは、過去のトレードの結果を詳しく調べるよりも、まず結果の分布状態を計算し、f 値をパラメトリックに算出することを主張する。
一見これはもっともらしい理屈に思える。
数学的表現を用いて将来のトレード結果の分布状態を予測することで、現実のヒストリカル・トレードを使うよりもより精度の高いモデルであると思わせるものがある。
短期システムにストップと手仕舞いテクニックを統合するときに、われわれはトレード結果の分布状態を観察するが、この特殊なケースでは、分布を使って f 値を求めることはほとんどしない。
実際のところ、それを行った場合は出来の悪いシステムがたくさん手元に残される結果となるであろう。
その理由は、トレードの分布が何らかの分布状態、 特に正規分布に似てくると、トレードの結果はおそらく散々なものになるからである。
本質的にそれぞれのトレードは仕掛けた直後からそのトレード本来の目的地に向かって動くものであり、ストップや手仕舞いテクニックを使わなければ効率的な結果を得ることはできない。
それよりも、各トレードについてごく少数の明確で特徴的な結果が得られるようにすることが大切で、ストップロスを使って最適の f を計算すべきである。
ストップと手じまい
ストップと手仕舞いテクニックによって、特定のマーケットのアノマリーに依存しないシステムを開発することができるのであって、これらのテクニックなしでは、そもそも固定比率資金管理のルールにシステムを委ねることなどできない。
とはいうものの、正規分布に基づくシステムで、本書のシステムよりもはるかに優れた結果を残すものが多数あるのも事実である。
ここまでわれわれが開発してきたシステムや戦略は、所詮「張り子の虎」なのである。
(*「張子の虎」:ここでは虚勢を張ったシステム=すごそうに見えて実際はたいしたことのないシステム、または何にでも反応するシステムという意味か)