トレーディングシステム構築論

第4章 天井と底をとらえる

Picking Tops and Bottoms

短期トレーディングを行う場合、あるいは「天井と底をとらえ」ようとする場合、 システムトレーダーの多くはまず、近年テクニカル分析の分野で多用されている多くのオシレーター系の指標を使おうとする。
このような指標には、RSI(相対力指数)、 ストキャスティック、モメンタム、ROC、MACD、プラスDMI、マイナスDMIなどがある。 ほかにも数多くのものが存在するが、一般によく使われているのは以上のものである。

これらは、マーケットの天井と底をとらえるのによい指標であると考えられている。
これらの指標は、マーケットが買われ過ぎや売られ過ぎの領域の出入りはもちろん、マーケットの動きを「確認」しないでも、マーケットの動きを先取りしたり、予測したりできるとされているからである。
しかし筆者は、読者がこれらの指標はヒストリカルのチャートでは有効であるが、現実のマーケットではほとんど役に立たないことに気づいているからこそ、本書を手にしたと考える。

もし、これらの指標がすべて役に立たないのであれば、どのようにして短期トレーディングに利益機会を見いだせばいいのであろうか。
トレーダーにとって、とりわけごく短期のトレーディングを行う場合にとって重要なことは、利益につながるデータを発見することであろう。
まず何よりも、トレーディングを行うマーケットについて、深く洞察しなければならない。
そうすれば、マーケットの現在の状況とそれを測る指標について、より的確な判断を下すのに役立つであろう。
しかし、そのためには、何を探し、それをどのように測るのかについて、前もって正確に知っておく必要がある。

すべてのマーケットで有効なシステムの構築

すべてのマーケットで、同じように有効に機能するシステムを構築するには、使用するデータのタイプを決定しなければならない。
通常のポイントベース修正つなぎ足では、過去のデータを使って、それぞれのマーケットで上げることのできる利益を推定することはできる。

しかしこの構築方法では、あるマーケットからほかのマーケッ トへと情報をつなげることはできない。
すべての動きに等しい加重を置き、計算に必要な入力値を引き出すには、パーセンテージベースの計算だけを使うことが、絶対に不可欠である。

そして先物のトレーダーであれば、フューチャーズ誌掲載の新しく開発されたRAD(『Data Pros and Cons』1998/6,『Truth Be Told』1999/1)も使うべきであろう。
(*RADとはRatio Adjusted Continuous Contractsの略)

トレンドのあるマーケットでは、価格変動の金額ベースの大きさは、マーケットの価格水準によって変わる。
上昇トレンドにあるマーケットで、価格が堅調に上昇している場合、金額ベース、またはポイントベースの変動も同様に増大する。
価格変動とマーケット水準の関係が変わらない場合は、マーケットがどの水準で取引されていても、パーセンテージベースの平均変動率も変わらない。
これはまた、百分率分析やパーセンテージベースのストップなど、どのタイプのパーセンテージベースの判断基準に基づいて作業を開始しても、すぐに必要となるものである。

収益性と有効性

ここでキーワードとして、「同じ収益性」の代わりに「同じ有効性」を使う。
ヒストリカルデータを使って仮想トレードを行うシステム構築時と同じように、将来にわたっても有効に機能し続けるトレーディングシステムを構築するには、有効性の高いシステムと、収益性の高いシステムの違いをよく理解しておくことも、また重要である。
さらに、以上のことを完全に理解したうえで、より重要なことは、収益性の高いシステムは必ず有効性の高いシステムでなければならないが、有効性の高いシステムが必ずしも収益性が高いとは限らない理由を理解することである。
このカギとなるコンセプトは、本書を通じて繰り返し強調していく。

有効性の高いシステムの収益性が高いかどうかは、そのシステム自体には関係がない。
むしろ、マーケットの現在の水準とその金額ベースの水準に関係がある。
例えば、S&P500の金額ベースの価格が、今日の250ドルからポイントあたり2.50ドル下落したとする。
いったいどのくらいのS&P500のシステムが、将来にわたって、あるいはヒストリカルデータによる検証でも、利益を上げることができるのだろうか。
おそらく、そう多くはないであろう。
重要なのは、現実のマーケットの価格と変動は、システムがマーケットの価格変動をうまく捕捉できるかどうかには関係なく、取引所によって技術的に決められるものであるということだ。

システム構築の過程では、実際の金額ベースの価格は関係ない。
その代わりに、プロフィット・ファクター、パーセンテージの動き、勝ちトレード回数などの一般的な指標を中心に扱うことになる。
マーケット間で結果に大きな違いが出ないように、これらすべての指標の標準偏差に注目する。
このように、有効に機能するシステム、すなわち優れたシステムとは、あらゆる市場環境において、大きな変動を可能なかぎり数多く捕捉できるシステムのことである。

しかし、システムの収益性を高めるためには、捕捉した変動が価値をもつマーケットで、そのシステムが使用されなければならない。
これはシステムそのものというよりも、現在のマーケットの取引水準とその金額ベースの水準に影響される。

2つの方向性から選ぶ

データとさまざまな測定方法から探し求めるものが明確になれば、次に自分が行いたいことを正確に把握しておく必要がある。
すなわち、基調をなす長期トレンドに従って同じ方向のトレードを行うのか、目先の動きをとらえるのかである。

どちらのトレードを行うにしろ、あらかじめ指値注文を入れる転換点を予測しておくのか、あるいは多少安全策を取りつつ、先行した動きがそのままの動きをたどりそうな裏づけを見つけだし、それからストップロスを入れるのか、自分で決めなければならない。

もっといえば、いったんポジションを取った後は、できるだけ長くそれを維持するのか、特定の価格にストップを置くのか、大きなマーケット変動の後でごく短期の売買を行って素早く勝ち逃げするのかを決めなければならない。

本書で紹介するシステム

この章では、利益の高いトレードを数多く生み出して優秀な成果をあげてくれそうな、いくつかのシステム案について詳細に考察していく。

最初の2つは、マーケットに特化したデータマイニング・システムで、調査技術としてもシステムとしても、どんなマーケットであろうと完全に応用できるものであるが、ある特定のマーケットや関連するマーケットのグループの特性にのみ着目する。

次のシステムは、独自に開発された指標で、ボリンジャーバンドとピボットポイントというパーセンテージベースの分析を統合したものとしては、おそらく最も優れたものであろう。

最後のシステムは、統計上の小さな優位性を利用するもので、トレードから抜けるルールを見つけだす方法を実証するだけものである。
これは、すべてのマーケットで同じように機能し、小さなトレードや、時にはほとんど利益が出そうにないトレードからも、長期的に利益を生み出そうとするもので、私はブラックジャックと名付けた。
これは、特にラルフ・ビンスの最適のfや固定比率投資(第3部で、われわれのシステムすべてに応用できる、さまざまな手仕舞いについて説明する)のような、より高度な資金管理戦略と併用することで、有効に機能するように設計されている。