トレーディングシステム構築論

バック・トゥ・ザ・フューチャー

あえて人には教えないこと

金融市場はランダムな動きをするものではなく、メカニカルなトレーディング戦略でこのアノマリーの動きを利用する方法がある。
幸いなことに、ロケット・サイエン ティストである必要もない。
ただ、今まで持っていた知識に少しばかり足りないものを補うだけのことである。

残念なことに、特定の事項について何の知識も持たない場合よりも、持っている知識が不足している場合のほうが悲惨な結果につながることが多い。
この業界の大物はこのことを分かっているからこそ、あえて人に教えようとはしない。
彼らにとっての金鉱脈ともいえる知識が、あなたを破産させるかもしれないからである。

このことを踏まえると、ストップを置くことについてわれわれが議論し尽くしたということとは一致しない。
基本的なトレーディングや投資に関して、ポジションを手仕舞うことについてはだれも真剣に取り上げていないからである。

手仕舞い

アナリストやブローカーの推奨をくまなく調べると、「強力な買い推奨」「買い推奨」「割安」「アウトパフォーム」「平均以上」「長期的に買い」「強気の見通し」のような多くの意見が得られるが、「売り推奨」「ここまで下がれば売り」「ここに到達すれば売り」のような意見にはほとんどお目にかかれない。
最もありふれたフレーズは、「中位のパフォーマンス」か「買い持続」であろう。

その理由は、この業界では売りは悪であって、ブローカーは顧客に悪い話を聞かせたくないし、させたくもないからである。 専門的な見地からみて正しいことであろうと間違ったことであろうと、悪いムードを 伝えてしまうことはビジネス上得策ではない。

しかし、筆者にしても読者にしても、何かに投資して(あるいは先物で)大金を吹き飛ばしてしまうわけにはいかない。
利益が出ていようと損失となっていようと、自分の研究に基づいて資金効率が高くなるようなポイントでポジションを閉じなければならない。

ストップと手仕舞い

ポジションを取るということは一度きりの決断であり、一度決断を下せば その状態でその先を何とかしなければならない。
しかし、ポジションを閉じる決断は現在進行形のプロセスであり、「資金をほかの投資対象に振り向ければもっと効率的ではないか」と常に自問し続けることになる。
この「ほかの投資対象」が銀行口座であるか、ほかのトレーディングや投資であるか、自分の枕の下であるかは問題ではない。

そのため、いかなるトレーディングや投資テクニックも、徹底的に研究されたストップや手仕舞いテクニックなしでは完璧なものとはならない。
ストップと手仕舞いポイントは、トレーディングプロセスの中心であるばかりでなく、収益性の高い資金管理ルールの基盤となるものである。

残念ながら、どのようなストップと手仕舞いポイントをどこに置くかを研究するには、過去の最大ドローダウンを金額ベースで知っているだけでは不十分で、使用するシステム全体についてはるかに多くのことを知っておく必要がある。

金額ベースのドローダウンは、将来起こることについて何の手掛かりともならないし、それをもとに何かを行うにしてもまったく無意味だからである。
ドローダウンについては、STD(スタートトレード・ドローダウン)、ETD(エンドトレード・ドローダウン)、 CTD(クローズドトレード・ドローダウン)、TED(トータルエクィティ・ドローダウン)のように、いくつかのカテゴリーに分類することを知っておかなければならない。
それが十分でない場合は、各トレードのMAE(最大逆行幅)とMFE(最大順行幅)の計算方法を知っておく必要がある。

第3部について

第3部で、これらの手法をすべて説明した。
サンプルとして使用した各システムでは、一連のストップと手仕舞いテクニックを統合して、それぞれのパフォーマンスを向上させた。
さらにわれわれの短期システムでは、これらのテクニックは一般的なもので、汎マーケット的なものとしてはベストの対策である。
これらを主に乱数機能を使って開発し、そのあとで検証過程で使用されたもの以外のマーケットに適用した。
そうすることで、このシステムは実質的に非カーブフィッティング的で、すべてのマーケットで繰り返し検出される汎マーケット的な矛盾を見つけだすことができるものとなった。

このことから、2つの興味深い結論が導き出された

  • 基調となるトレンドに従ってトレンドフォローのトレードだけを行った場合は、 ほとんどのマーケットで通用する長期的な優位性を獲得できる。
  • 長期トレンドの見通しを立てられない場合は、わずかなヒストリカルデータを使って結論を出し、短期(3~9日程度)のトレードでしのぐことができる。
  • マーケット間の統計上の特性は、トレンドの方向や状態に関係なくかなり似通ったものである。
    例えば、直近の5日間のマーケットの動きをみると、小さいながらも測定不可能な変化が起こっており、これが長期のトレンドを形成することになるかもしれない。
    そのレベル(*長期のトレンドを形成したとみなせる段階?)では、統計の特性上測定可能な差異が生まれ、上方または下方へのトレンドがそれぞれ明確になってくる。

    短期トレードのメリット

    短期トレードを行うことによるもうひとつの大きな利点は、長期トレンドの方向性だけでなく、あえて指値注文を使って天井や底をとらえることも可能となることである。
    これは、長期トレンドを把握していることで安全性が確保されているから可能となるのである。

    短期的あるいは長期的なマーケットの方向性を見極める方法と、それが最初に起こる理論的背景のすべてを、第4部全体を通して説明した。
    フィルターを追加する場合は、当初の考え方を多少修正する必要があるかもしれない。
    あるいは、フィルターを望ましい効率性に適合させることができない場合は、当初の考え方を捨てる必要が出てくるかもしれない。

    第1部と第4部の構成のすべてを完全に適合させるまでは、資金管理を追加し、システムを戦略のレベルまで引き上げて、さらに全体がその部分の総和を超えるようなシステムを作り上げることはできない。

    それには、一連のルールと枠組みに加え、トレーディングプロセスについての理解とルールベースのトレーディング戦略を、時間的位置的に孤立した個別の決定としてではなく、意思決定の流れのなかに介在させる必要がある。

    これを理解し認識していないと、このようなトレーディングのメリットを引き出すことはできないし、使用するシステムの個々のシグナルを基盤となるデータに最適化することができない。
    そればかりか、自分のトレーデ ィング・ポジションを戦略全体と個人的な制約や好みに「最適化」することもできないのである。

    終わり