トレーディングシステム構築論

トレーディングシステムを作り上げ、そして運用するためには、システムの評価が必要だ。
ではどのように評価するのか?そのプロセスの概略。

本:トレーディングシステム構築論

今回はいまだに運用できるトレーディングシステムの完成のできない人(私も含めて)、苦悩の日々を送る人にとって、ためになると思われる、あるウェブサイト(または本)からの抜粋を数回に分けて掲載します。

まえがき、から

トレーディングシステムで難しい問題のひとつは、システムの検証結果がどのような基準を満たせば実際に売買できるのかということだと思う。
成績が良ければ良いほど好ましいのは明白であるが、再現性の乏しい好成績ではなんの意味もない。
監修者の知るかぎりにおいて、この問題に明確な答えはなく、すべてはトレーダー個人の判断に委ねられている。

しかしそのベースとなる成績の評価方法に間違いがあったとしたらどうだろうか。
それはシステムのロジックを議論する以前の悲劇である。

本書によると、トレードステーションが出力する金額ベースの成績には何の価値もない。
比率による成績表示でないとシステムの素顔は分からないし、再現性の高い指標は得られないというのだ。

これを受けて多くの読者が今までの検証方法を見直すことと思う。
特に株式のシステムトレーダーにとって本書のインパクトは大きいだろう。

はじめに、から

ほとんどのトレーダーが犯す大きな間違いは、次のようなものであることが分かった。

知識の細かい断片を寄せ集めてトレーディング戦略を構築し、そこから大金を得ようと試みるものの、リスク管理や資金管理の知識を持ち合わせておらず、システムがある種のマーケットでは機能しない理由も、最大のドローダウンがこれから起こる理由も、設計どおりに機能しているシステムを使っているのに破産してしまう理由も分からない。

そして驚くべきことには、この傾向はプロフェッショナルとして長年認められたトレーダーにも、プロフェッショナル気取りのアマチュアトレーダーにも共通しているのである。

もうひとつの共通した間違いは、資金のニーズと効率性を考慮せず、トレーディング方法を徹底的に調査しないというもので、これは特に少額のマネーを扱う投資家に多く見られる。

取引口座のサイズが大きくなるにつれて、より「洗練された」トレーディング戦略やマーケットの複雑さについて学ぶ時間も多くなると考えるかもしれない。
しかし、そうではない。
マネーはマネーであり、最初のトレーディング方法で成功できなければ、長年巨額の資金を運用してきたマネジャーであろうと、1万ドルの資金を扱う初心者であろうと、その資金を失ってしまうであろう。

資金管理戦略を用いずに基本的な移動平均交差法だけを使って1万ドルの資金運用(それが唯一のトレーディング知識と使える資金のすべてだとして)を行って、巨額の資金とあらゆる トレーディング知識を駆使した場合よりもすぐれた成績を収めることができるだろうか。

最初から正しい方法でトレーディングを行うだけの知識と十分な資金を持ち合わせていないのであれば、トレードを実行すべきではない。
そのような状態でトレードを実行すれば、確かに、より「洗練された」トレーディング戦略について学ぶ時間はたっぷりあるかもしれないが、トレーディングを行っているときには、そんなことは不可能であることが分かるはずである。

悩めるトレーダー達へ

本書は、トレーディングが容易なものではないことを悟りながらも、失われた断片を特定できず、いまだにパズルの全体を埋めることができないでいる、あらゆるレベルのトレーダーに向けたものである。

トレーディングの成功を阻んでいるものはおそらく、より洗練された戦略を組み合わせて成功の確率を高める方法についての全体的な理解の不足であろう。
本書では、このトレーディング戦略についての全体的な理解を深め、パズルの全体を埋めるために最大限の労力を費やしたつもりである。

多くのトレーダーは、誤った情報を与えられており、トレーダーでなければマーケットがどのように動くかを理解できないと考えている。
しかし、それは大変な間違いと言わざるを得ない。

数学に優れているからといって語学にも堪能とは限らないし、運転技術が優れているからといって豊富な技術知識を持っているとは限らない。
優秀なトレーダーだからといってアナリストとしても優秀であるとは限らないし、その逆もまた然りである。

アナリストとして、またシステムとメカニカルなトレーディングの専門家として、(*筆者は)自分の戦略に関するかぎり、それに必要なトレーディングの技術を持っていなければならないと考えている。

本書のなかでしばしば学術的な専門用語を使うことがある。
例えば、標準偏差、尖度、数学的期待値といった用語を使用し、数学的な計算を行う場合もある。
しかし、マーケットを分析するのにロケットサイエンティストである必要はないということである。
既存の書物から得ているものにほんのわずかの知識を追加し、あえて「常識の枠」から少しばかり踏み出せばいいのである。
その点について筆者は一切弁解しない。

本書は実用的なものであると認められると考えているが、けっしてだれにでも使えるような簡単なトレーディングシステムではない。
そのようなシステムは(*本書中には)存在しない。
本書は、トレーディングのプロセスの構築を始める前に推論を検討して、真のトレーディング戦略といえるものを統合する方法を説明したものである。

真のトレーディング戦略とは、孤立した単独の決断の連なりではなく、長期間にわたって機能する作業プロセスのことである。
これはそしりを恐れずにいえば「哲学」とでもいうものである。
有効に機能する統合された戦略の背後にある哲学とは、マーケットを動かしているものの背後にあってその動きの根底となるもので、それを理解することによって、戦略が有効に機能する、あるいは機能しない理由が明らかになる。

トレーディング戦略とは、「プロセス機構」のことであり、ひとつの決断が自動的に次の決断を引き出し、それが続いていって永続的に機能する永久機関のようなプロセスを生み出すものであることを理解してほしい。
そして永久機関のように、トレーディング戦略は繊細で、必要最小限の部品で構成され、それがより大きな全体構造を形成し、エネルギーの損失は発生しないのである。

可能であれば、それぞれの部品がほかのすべての部品を考慮したうえで統合され、さらにほかの部品の一部となるのが理想的である(これは本書の哲学的な特徴である)。
実際には不可能であるが、ほぼ、それぞれの部品が、自動車を機能させる部品であると同時に自動車そのものであり、すべての部品を構成しているという状態である。

人それぞれ

しかし、永久機関が現実には存在しないように、優れたトレーディング戦略を統合することは、バランスのとれた自動車を購入するのに似ている。
このすべての作業を行いながら、自分のニーズと現在の経済的状況その他を考慮しなければならない。
例えば、レーシングカーを買えるだけの資金があったとしても、日曜日に家族と出かけるのにそんな車や地ならし機などを使ったりはしないであろう。
ランボルギーニと比べれば、ステーションワゴンやミニバンなどはつまらないものかもしれないが、たいていは日常生活の必要に応じた車を選ぶであろう。
同じことがトレーディング戦略についてもいえる。

まず、自分のトレーダーとしてのタイプと適した戦略のタイプを知る必要がある。
これはいささか退屈な作業で、「追い越し車線を突っ走る」ようにはいかないし、「ハンドルを握って」臨機即応に運転するようにもいかない。
筆者の実際の経験では、少なくともシステマティックなトレーディングとは、ビールとつまみなしで観戦する野球のように退屈なものである。
しかし、同じことが公道を走る場合とトレーディングルームについてもいえる。
そこはゲームを楽しむところではない。

トレーディング戦略を統合するということは、デイトレーディング用の特定のマーケットに特化した高速なシステム(800馬力のエンジンを搭載したマシンのような)から、長期トレーディング用の汎用システム(地ならし機のような)ものまで、実際のシステムに売買のルールを組み込むことである。

これが完了すれば、次に資金管理に取りかかる。
これは、ギアボックスとトランスミッションに相当する。
システムの目的を念頭に置きながら、システムをできるだけ効率的で安全なものに仕上げなければならない。
自動車のたとえを続けるなら、レーシングカーのエンジンにステーションワゴンのトランスミッションを合わせようとすれば、それは悲惨な結果を招くことになる。

エンジン(システム)とトランスミッション(資金管理)が、バランスよく機能することが確認できたら、次は運転席と車体である。
トレーディング戦略では、これはトレードを行うマーケットの選択に相当する。
特定のマーケットに特化したシステムの場合は、この過程はすでに終了している(Aの前にCが終了している)。

しかし、戦略が特定のマーケットに特化したものであるかどうかにかかわらず、そのシステムができるかぎり多くのマーケットで有効に機能するようにしておくことが重要である。
マルチマーケットのシステムでは、システムをマーケットにカーブフィッティングさせてはならないのと同様に、マーケットをシステムに対して最適化することで、 戦略をカーブフィッティングしてはならない。

理想のシステム

優れたシステムと収益性の高いシステムとの間には、大きな違いが存在する。
この違いを理解しておくことは、何にもまして重要である。

また、優れたシステムは収益性の高いシステムへと変わる可能性が常にあるが、その逆はあり得ないことも重要である。
有効に機能するシステムは、パーセンテージベースやほかの汎用性の高い基準で測定される同じタイプの動きを、あらゆるマーケットでとらえることができるからである。

一方で、収益性の高いシステムとは、有効に機能するシステムで、特定のマーケットやマーケットのポートフォリオに対して完璧な戦略を適用したときに利益を生み出すものである。

エンジン(システム)とトランスミッション(資金管理)、車体(マーケットの ポートフォリオ)で自動車(戦略全体)を組み立てても、まだ足りないものがある。 それは、燃料とドライバーである。燃料とは資金と時間であり、ドライバーとはあなたのことである。しかし、幼児をシートに乗せて運転席に座る前に、これが本当に自分に適した車かどうか(本当は自分がランボルギーニを乗り回すタイプであると分か っていても)を確認する必要がある。

本書について

本書の内容は、すべてデイトレーディングのテクニックとして応用できるものであるが、今日巷にあふれている多くのデイトレーディングの解説書に屋上屋を重ねるようなものではない。
本書では商品先物のマーケットを例として多用しているが、けっして特定のタイプのマーケットを志向したものではない。
株式やマーケット(市場)、コントラクト(銘柄)という言葉は同義語として扱われる。

第1部では、システムのパフォーマンスを、基本的で汎用性の高い指標を使って測定する方法を詳しく説明する。
さらに、マイクロソフト・エクセルのようなスプレッドシート・プログラムを使って分析を深める方法についても説明する。
このセクションでは、さまざまなタイプのデータとそれをいつどのように使用すべきかについても、詳しく研究する。
これは特に先物のトレーダーが理解しておくべきことであるが、株式専門のトレーダーであっても、今まで構築してきた多くのシステムが実際に稼働し始めたとたんに機能しなくなる理由について、貴重な洞察にふれることになろう。

第2部では、目的に応じてさまざまなタイプのデータを使い分け、長期と短期の基本的なトレーディングシステムを統合する。
特定のマーケットに特化したシステムもいくつかあるが、それ以外はすべて多くのマーケットで使用できる。
スプレッドシート・プログラムを使って多くの分析を行い、そのために第1部で開発したコードを使用する。
また第2部では、本書全般で使用する特別な仕掛けのテクニック以外で、最も重要なことを学ぶ。
それは、有効に機能するシステムが必ずしも収益性の高いシステムであるとは限らず、特定のマーケットではうまくいかないシステムもある、ということだ。

第3部では、第2部で統合したシステムの検証を行い、統計上の特性を向上させる方法を研究する。
そのために、ジョン・スイーニーのMAE(最大逆行幅)、MFE(最大順行幅)の分析手法や、ドローダウンを切り分けるさまざまな手法を使用する。

また、尖度や歪度などの指標も導入する。
第3部はいろいろな意味で最も重要なセクションである。
あとで固定比率資金管理ルールに追加する手仕舞いのテクニックによって、最低でも収益を10倍に模することが可能となる。

第2部の仕掛けのテクニックと第3部の手仕舞いのテクニックに加えて、第4部ではマーケットの好ましい状況や構成を抜き出すための、さまざまな手法の研究を行う。
ランダムな仕掛けのポイントを使用することで、可能なかぎり多数のトレードを生成できる。
これによって、わずか数年のデータで長期間に相当する独自のトレードを必要なだけ生成することが可能となる(本書を書いたあとで、実際にこのテクニックで直近10年間のダウ・ジョーンズ工業株30種平均の株価データから、300万年以上に相当する独自のトレードを生成した。
これで堅実な結果が得られなければ、もうどうすることもできない)。
このセクションの最後に、より理論的な考察を扱う章を設けた。
そこでは、トレンドがどのようにして形成されるかを理解するための枠組みと、システマティックなトレーディングが最も有効であるとする筆者の信念の背景を説明する。

第5部では、さまざまな資金管理戦略を使用してすべてのシステムを結合することで、これまでのすべてを結びつける。
また、複数のマーケットとシステムの組み合わせで構成されるポートフォリオを統合する方法についても詳しく研究する。
そこでは、それぞれの組み合わせが互いに相乗効果を生み出す。
これは、資金管理ルールを共有しつつ、すべてのシステムが連携し合って機能していなければ達成不可能なものである。
新しい造語を使うならば、われわれが行っていることはシステムの「最適化(optimize)」ではなく、システムを「適量化(optisize)」することである。

「適量化」と最適化の大きな違いは、最適化がシステムをデータに対してカーブフィッティングさせるのに対して、「適量化」ではトレーディングの金額をシステムに適合させるのである。
システムの最適化の度合いが低いほど、戦略をより適量化することができる。

ほとんどの作業はスプレッドシート・プログラムで行う。
公式やコードは数多くあり、そのままコピーして各自の作業で使用できる。
本書を完結する前に、システムの堅牢性を確認する方法を説明し、システムを実際のトレーディングに使用する前に自信をつけることができるようになっている。

何人かの人が、このノウハウを自分で利用せずに他人に教えてしまうのはなぜかと質問してきた。
本書のシステムや戦略が広まって優位性を失ってしまうことはないと考えるからである。

その理由は、第一に、本書の読者すべてが内容に賛同するわけではなく、また他人のアイデアでトレードを行うよりも自分のアイデアで行いたいと考える者もいるため、全員がこの内容を実行することはない。

第二に、それを使ったとしても、多くの者が利益を得ることはできないであろう。
彼らは常に思慮不足から失敗を犯すからである。

最後に、最大の理由は、マーケットはわれわれが考えているよりはるかに大きなもので、本書の戦略はしょせん数多く存在する戦略のなかのごく一部でしかあり得ない。
そしてその数多くの戦略のおかげで本書の戦略が 有効となる。

実際のところ、筆者はこれらの戦略が自己強化するくらい広く普及して、戦略の収益性が高まることを期待しているくらいである。
この観点に立てば、読者は筆者の敵ではなく目的を同じくする味方であり共犯者である。
トレーディングというゲームにおける真の敵は、自分自身である。
人生でどんな状況に直面しようとも、他人の助けを借りなければ物事を成し遂げることはできない。
したがって、基本的には読者にノウハウを譲り渡したとしても、自分自身によるリスクに比べれば、それは自分の将来の富を脅かすものとはなり得ない。

最後に、有名なマネーマネジャーであるラルフ・ビンスの言葉を読んで、本書をかたわらに置いてしばらく熟考してもらいたい。
もし、この内容が理解できないか賛同 できないのであれば、本書を読む必要はない。

将来において数学的期待値をプラスに維持するには、使用するシステムの自由度を制限しないことが重要である。
それには、最適化のためのパラメータを除去するか、少なくとも最小限にするだけでなく、システムのルールを最小限にしなければならない。
システムにパラメータを追加したり、ルールを追加したり、調整や制限を加えたりすると、それらはすべてシステムの自由度を制限する結果となる。

理想的なシステムとは、基本的かつシンプルなもので、あらゆるマーケットで損益分岐点を超える限界利益を継続的に上げることのできるものである。

また、システム自体の収益性が高いかどうかは、システムが利益を生み出しているかぎり重要ではない。
トレーディングによる収益は、採用している資金管理の効率性に依存する。
トレーディングシステムは、使用する資金管理に基づいてプラスの数学的期待値を得るための道具である。
単独の、またはごく少数のマーケットでのみ機能する(限界的な利益を生み出す)システムや、さまざまなルールやパラメータを使ってあらゆるマーケットに対応させているシステムは、実際のトレーディングで使用した場合に、長期にわたって機能することはないであろう……」